3.事業化へ

台車につける車輪は、プラスチック成形にしたいと思っていました。story08

我が家で使っていた乳母車の車輪は、鉄製リングと鉄製スポークに硬質ゴムタイヤを組み合わせたもので、すごく重いものでした。プラスチックにすれば断然軽くなります。金メッキを施してインテリアとして通用するようなものにできます。外で使用する乳母車を室内に入れるなんて、土足で家に上がるようなものですから普通では受け入れがたい話ですが、金メッキなら汚らしくありません。しかも、スポークやハブをスマートな形状に設計できます。

このようにいいことずくめのプラスチック車輪ですがひとつ大きな問題点があります。成形用金型の製作費が数百万円もすることです。そして、費用がかかるので法人でなければ取引に応じてもらえません。この頃から事業化を意識するようになりました。

さて、バスケット、着脱機構、サスペンション、車輪などのパーツがそろったら、いよいよ台車にバスケットを乗せた本体の試作です。これについては父のコネで自動車部品会社の力を借りました。開発部にお願いして台車フレームを試作してもらったのです。図面があれば、金属加工はそれほど難しいものではなく、おおよその形が比較的短期間で完成しました。ここまでくればあと一歩、ストッパを作れば完成です。

踏むだけのストッパ

ストッパの開発には手こずりました。

一般に、ベビーカーには、ゆるやかな傾斜面で停止した時、勝手に走り出さないようにするための「ストッパ」が必要です。従来のストッパは、後輪の近くに前後に傾くシーソーペダルがついていて、ペダルを踏むと車輪と一体の歯車にピンが噛み込んで停止させ、そのペダルをはね上げると停止状態が解除できるようになっています。story09

この「はね上げ動作」は不快です。特に、ハイヒールやサンダル履きの時、つま先ではね上げるのは嫌ですから、お母さん方は「しゃがんで指先ではね上げる」という動作を強いられていました。この「はね上げ動作」をなくしたい、「踏んで停止。解除する時も踏むだけでよいストッパ」を作りたいと思いました。
ヒントになったのは「ノック式ボールペン」です。頭を押すと芯が出て、横の突起を押せば芯が引っ込むタイプです。この頭を押す部分が停止ペダルだとすると「横の突起」が解除ペダルになるはずです。そこで、停止ペダルを上下にスライドさせると、それに連動して解除ペダルが動くストッパを工夫しました。

写真のように、停止ペダルを踏む前は、犬の鼻みたいな部品が停止ペダルのピンに寄りかかっています。停止ペダルを踏むと、犬の鼻が回動して、鼻の下がピンに引っ掛かります。次に解除ペダルを踏むと、鼻が逆方向に回動してピンからはずれ、停止ペダルは元の位置に戻ります。これで「踏んで停止、踏んで解除」が実現できるようになりました。第1段階を突破です。

まだ完成ではありません。

従来のストッパは、左の後輪と右の後輪にそれぞれ一個のペダルがついていて、両方を別々に操作しなければなりませんでした。つまり「踏んで停止、はね上げて解除」を2回しなければならなかったのです。これは不便です。そこで、停止ペダルに長いスライドピンを取り付け、一度踏めば左右の車輪を同時に停止できるようにしました。これで2回の操作が1回でできるようになりました。第2段階を突破。

まだ完成ではありません。そこで、やや大きめの円筒の内側に歯車を作り、そこにスライドピンを引っ掛けるようにしました。これならピンと歯車は円筒の内側に納まり外からは見えません。「機能とデザインの調和」。story10

車輪の歯車にスライドピンが引っ掛かる仕組みを外から見えないようにしたいと思いました。そのほうがスマートですし、歯車の隙間に異物がはさまって故障するのを防げるからです。

そこで、やや大きめの円筒の内側に歯車を作り、そこにスライドピンを引っ掛けるようにしました。これならピンと歯車は円筒の内側に納まり外からは見えません。「機能とデザインの調和」。

これでやっと完成です。

ハンドルの曲げ方にノウハウ

カゴと台車とストッパが完成。最後のハンドルもちょっと手間取りました。

上側に幅の狭い平行バー、下側に幅広の平行バーがあります。両者を横から見た時、一直線に見えれば外観がスマートになります。それにはパイプの曲げ角度を微妙に調整する必要があります。パイプ加工会社に図面を見せると、「途中が捻じれているじゃないか。こんな形には曲げられないよ」といいます。そんなはずはありません。計算してみたら、1回目に曲げた後、パイプを少し回転させてから特定の方向に曲げればよいと分かりました。

今ならCAD(コンピュータ設計)を使って簡単にできてしまう話ですが、プロにできないといわれた問題を解決してちょっぴり自信を得ました。工業デザインが面白いと感じるようになった瞬間です。

グリップは試行錯誤

お母さんの手が触れるグリップは天然木にこだわりました。グリップ棒の直径や形状は少し変わっただけで感触が変わり、疲れやすさにも影響します。家具の手すりなどを参考にして、ああでもない、こうでもないと試行錯誤を繰り返しました(写真)。

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