6.人生の始まりの3年間

会社設立から20年が経ち、たくさんのユーザーと接するなかで、「人生の最初の3年間」に興味を持つようになりました。

のびのび寝られる、2人乗りができる、人込みでも安心、ぐずった時でもプスプスに乗せると機嫌が良くなるなどの特徴を、たくさんのユーザーに認めてもらい、支持を得てきました。ありがたいことです。

そうしたなかで、最近、そうしたベビーカーとしての使い勝手(便利さ)とは別の要素がより重要なのではないかと思えてきました。

たとえば、「母と子の心の交流」。

プスプスの育児では、赤ちゃんが8か月~1歳ぐらいになると「チャイルド・フェンス」を取り付けるようになります。カゴの周囲を20cm高くして転落を防止する安全枠です。このフェンスをつけると、子供はつかまり立ちするのがよほど楽しいらしく、お散歩の間中、ずっとつかまり立ちをするようになります。乳母車が動くと景色が変わるのでちょっとしたアトラクションみたいになるわけです。珍しいものを見たらうれしそうに「あっ、あう」とお母さんに呼びかけます。お母さんが笑って応えてくれればもっとうれしい!

そうした「共感」は子どもにとって心の栄養となり、母と子を仲良しにする作用を持ちます。対面式でないベビーカーでは心の栄養が足りず、仲良しになる機会が失われるということはないでしょうか。

使わなくなったプスプスは、リサイクル品用に下取りをしていますが、わずかな台数しか戻ってきません。

「思い出が詰まっているので手放したくない」

「友達が使わなくなったらほしいというので譲ってしまった」

「プスプスを下取に出すと言ったら子供が泣き出してしまった」

「将来、孫が生まれたら乗せたいので納戸にしまってある」

などといった理由です。「親子の思い出の品」になっているわけです。手離すことになった人も「楽しかった頃の記憶が甦り、思わず涙が出てきた」という人が少なくありません。

下取り品は、平均して5~6年間使用され、2~3人のお子さんを育てたケースが多いです。

つかまり立ちの効用

安全フェンス

先日、つかまり立ちについて興味深い話を聞きました。

あるマンションで、同じ時期に出産した2人のママさんがいました。

一人は乳母車、一人は折畳ベビーカーで育ちます。1歳ぐらいになって子供が歩くようになったある日、ベビーカーのママさんから「お宅のお子さん、歩くのが上手ですね」と乳母車のママさんはいわれたそうです。いわれてみると、確かに乳母車育ちのわが子のほうが安定感があり、歩く姿勢も良い。どうやら、日常的につかまり立ち運動をしているうちにバランス感覚が養われ、脚力も強くなったらしい。「乳母車の中で、遊びながら自然に発育してきた」ということに気がついたというのです。

私が家の子供たちも乳母車に乗っている時はいつも動いていました。カゴの中をぐるぐるつたい歩きをしたりして、最後は汗びっしょりです。あの運動量は、体育会のクラブ活動に匹敵するはずです。そうした「日頃の訓練」があったからこそ、歩けるようになってからの差が出てきたのだと思います。

赤ちゃんの自己表現

プスプスをベビーベッドとして使っていたお母さんの話にはもっと深く考えさせられました。

生後2ヶ月ほどになり、そろそろ外の散歩に使用したいと思い、初めてプスプスを外へ出た日のこと。外へ出たとたん、赤ちゃんが泣き出してしまいました。その様子は、「非常に不機嫌」としかいいようがないものでした。その日は泣いてばかりでした。

「せっかくお散歩に連れて行ってあげたのに、なぜあんなに不機嫌だったのだろう」、お母さんは夜遅くまでその原因を考えたそうです。普段なら、プスプスに乗せて揺らしてあげるだけでおとなしくなるのに、今日はまったく逆だった。なぜだろう・・・。

で、ふと思ったのは「今までは、家の中だけで寝かせたり、移動するのに乳母車を使っていた。それを外へ持ち出したことがこの子には不満だったのではないか」ということです。

次の日、お母さんは赤ちゃんに話しかけました。「あのね、この乳母車は、もともと外で使うものなの。今まではお部屋の中だけだったけど、これからはこれで一緒にお散歩しましょうね。家の中でも外でも、これがあなたのものであることに変わりはないのよ」とゆっくり時間をかけて説明したのだそうです。

すると「ちゃんと話が通じた」らしく、その日からはゴキゲンでお散歩ができるようになったのでした。
言葉の分からない赤ちゃんですが、その内側では、知性も感性もしっかり働いているわけです。

「相手は赤ちゃんだから何も分からないだろう」などということはありません。

「あっ!危ないですよ!」

このお母さんの話を聞いた時、「ニキーチン夫家内と7人の子ども」(暮しの手帖社)という本に書かれていたエピソードを思い出しました。

赤ちゃんに「危ないもの」を教える方法です。

赤ちゃんが興味を持ちそうなきれいな待ち針を用意します。

赤ちゃんが針に手を伸ばそうとした所で、お母さんは、目を丸くして「あっ、大変!あぶないよ!」と心配そうな顔をします。真剣かつ大げさな表情で。赤ちゃんは驚いて手を引っ込めるはずです。

次に、針の先を赤ちゃんの手にほんの少し「チクッ」と感じる程度に当てます。びっくりして泣き出すかもしれません。でも、これで「針は痛いもの」と覚えてくれればしめたもの。お母さんの見ていないところで針に触ってしまう危険を避けることができるようになります。

同じようにアイロンが熱いものであることも教えることができます。ヤケドしない程度に暖めたアイロンに赤ちゃんの手を触らせるのです。「あっ、熱い!熱いですよー」と思い切り心配そうな表情で。(包丁やフォークでも応用がききます)。

おとなしい子供たち

渋谷店ではユーザーの皆さんと雑談をする日があります。その日、大人5組と0~5歳の赤ちゃんと子供6,7人が集まって、おしゃべりをしていました。もう2時間以上が経った頃、普通なら同じ場所にいることに飽きてきて、ぐずったり泣いたりする子が出てくるはずなのに、そういう子が一人もいないことに気がつきました。

「狭い部屋にこれだけの子がいるのに、みんなおとなしいですね」と私がいうと、1人のお母さんがいいました。「そうなんです。プスプスだと落ち着きのある子に育つ気がします」といいました。「自由に寝返りを打ったり、お座りをしたり、つかまり立ちしたりできるのでストレスがないからでしょうかね」などとほかの皆さんも同感です。「そうか、そんなことがあるのか」。私は、何か大きな発見をした気がしました。母と子の共感が仲良しを育む心の栄養であるように、のびのび楽しく育つことで人間性の深い所に栄養が行き届き、「落ちつきのある子」になるのでは、と思ったのです。

♪回る回るよ時代は回る♪

0~3歳までの3年間は、人生の始まりのほんの短い期間です。この時期、周囲の大人は、ともすれば「かわいい、かわいい」というだけの対応をしてしまいがちです。しかし、赤ちゃんはお人形ではありません。内部に成長のエネルギーが満ち溢れている生き物なのです。筋肉と神経と内臓、そして脳が日々発達し続けています。赤ちゃんは、自分が生まれた所(地球)がどんな所なのか、周囲にはどんな人や動物、物や出来事があるのか、感性を研ぎ澄ませながら全力で知ろうとしています。

また、赤ちゃんは言葉を話せなくても(というより話せないからこそ)、大人が何を伝えようとしているのか全力で理解しようとしています。赤ちゃんの中にはそういうものすごい精神エネルギー(知性と感性)が働いています。そういうことを思う時、窮屈な椅子に小さな車輪をつけて運ぶカートには疑問を持たざるを得ません。折畳椅子は、体育館に並べて使うには便利だと思いますが、お客様をおもてなしする応接室には不向きなのではないでしょうか?

この辺りのことを世界中の人々が間違えている気がしてなりません。檜町公園1

太陽のきらめき、皮膚をなでる風、温かい空気、冷たい雨、ふかふかのお布団、お母さんのやさしい声、籐の編みカゴのすべすべごつごつした感触、そういうものすべてが精神の栄養となって赤ちゃんを成長させます。路面の照り返しと排気ガスの中をガタガタ搬送される3年間と、プスプスに乗ってのびのび過ごす3年間は、その子の未来に大きな影響を及ぼす可能性があります(科学的根拠はありませんが)。

時代は変わります。「今どき折畳式なんか使っているの?」という日が来ないとも限りません。

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